『手紙になったリンゴ』
あれは私が小学校1年生の時、『手紙になったリンゴ』(手島悠介作・山本まつ子絵 岩崎幼年文庫)という絵本を読みました。たしか読書感想文の推薦図書だった気がします。
北国に住む女の子「ちこ」のお父さんは、東京へ出稼ぎに行ったまま、なかなか帰ってきません。工事現場で働いて、リンゴ園を開くお金を貯めているのです。
ちこはお父さんに会いたい一心で、リンゴに思いを託します。
「おとうさん はやくかえってきて ちこ」
色づく前の緑のリンゴにマジックで、と黒々と書き、
赤く色づいたところでタオルでごしごしごし。
黄色い文字がくっきり浮きあがってきました。
東京のどこにいるかわからないお父さんを探して、リンゴは本当に頑張ります。
行く先々で出会う人やカラスのお母さんに助けてもらいながら、探し続けます。
だけどどんどん文字は薄れて、見えなくなっていく。もうダメか?
「でも、リンゴは、ないたりしませんでした。自分で自分のことを、かわいそうだと思ったところで、なんにもならないことを、リンゴは知っていたのです」
えらいぞリンゴ、がんばれリンゴ!
ドキドキしながら読んでいた、1年生の私がいました。
あれから時は流れて……
去年の秋、淡路島へ行った帰り道、兵庫県加東市の岡部産業を訪ねました。岡部雅子さんと晴美さん親子が営む「バクタモン」の会社です。初めて聞いた時は、「バクタモンって誰?」と思いましたが、ドラえもんの親戚ではなく、日本で65年以上前から使われている農業用の微生物資材で、これを使っている農家は「味がいい」と評判なのです。
昼食をいただいた後、おいしそうなリンゴが出てきました。もちろん「バクタモン」を使って栽培されたものです。
「青森の片山さんのリンゴですよ」と社長の岡部さん。
「えっ、片山さん? あのずんぐりむっくりで、ぼそっぼそっと津軽弁でしゃべって、哲学が大好きで東北大に7年も通って、日本で初めて自力でリンゴをヨーロッパへ輸出した、あの片山さんですか???」
「そうですよ。リンゴの樹、一本一本抱きしめるように育ててる、あの片山さんですよ」
「うわあ、おひさしぶりぃぃぃぃ」
思わずリンゴに手を振る私。そしてひと口かじると「しゃり」。
甘く、冷たくて、目の前にリンゴ畑が広がっていくよう。
懐かしい片山さん。10年前と5年前、弘前でお会いしたきりだったなあ。
「青森に来て!」
皮に浮き出る黄色い文字はないけれど、そんなリンゴの声が聞こえた気がしました。
「へっ? なんですと?」
「いいから早く、片山さんに会いに来て!」
「わっ、わがった。なんとかして行くから、待ってて」
いつしかリンゴは、片山さんから私への手紙になっていたのです。
今年の秋、そんな片山さんの農園を5年ぶりに訪ねました。なぜか2回も。
その時の模様がこちら。
『農耕と園芸』2017年1月号
http://noko.seibundo-shinkosha.net/magazine/20161222/162949/
タイトルは、
「リンゴは、味と中身で勝負!」
リンゴも人も一緒だよ。
日本人は、見た目で農産物を評価しがちだけど、
額物やケースに入れてずっと飾っておけるわけじゃない。
食ってなんぼだべさ。
いわれてみればごくごく当たり前のことを、
片山さんは、出会った時からずっと訴え続けている気がします。
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