いわきの漁師さんは、今…。
10月10日、昨年6月の相双漁協に続き、いわき漁協でも、2年半ぶりに試験操業が始まります。本当は9月に始まる予定でしたが、原発の汚染水問題が浮上してストップ。満を持しての再開です。
そこでいわきの漁師、新妻竹彦さん(52歳)に、電話でお話を伺いました。8月末に訪れた「いわきサイエンスカフェ」で、たまたま隣の席に居合わせた方で、
——新妻さんも、今回試験操業に出られるのですか?
10月3日の試験操業は、沖合いの漁場で魚を取る船が中心。私たち10t未満の船はふだん操業する海域ではないので、参加は見合わせることになっています。私の熊野丸は6.6t。震災前は海岸から20km以内の海域で魚を獲っていました。
——震災前は、どんな漁をされていましたか?
久之浜の小型底曵船は、福島第一原発から20km圏内で行なう漁が、操業時間の8割を占めていました。「底曵き」は、海の底にいる魚を網を使って捕獲するもの。網を揚げると、いろんな魚が混ざりあって入ってきます。
今回の試験操業で、漁獲が認められているのは、スルメイカ、ミズダコ、ズワイガニ、アオメエソ(メヒカリ)など16種。一方、アイナメ、ヒラメ、マコガレイ、スズキなど42種は出荷が禁止されています。ですが、底曵きの網には、その両方が一緒に入ってくる。混獲率の高い操業形態なのです。
我々の漁獲の中心は、ヒラメやカレイ類。量的にも価格的にもヒラヒラした底魚がメインでした。今出荷停止されている42種が全体の7割を占めていましたが、大部分が出荷停止になっています。それ以外の魚を売っても、売上げは2割にもなりません。

——出荷が認められている魚種だけを、選んで獲ることはできないのですか?
単独で漁獲できる、タコやイカ、ズワイガニ。海の表層を群れで漂うシラスやコウナゴ以外はまずムリですね。一度網にかかったら、一網打尽。みな一緒に獲れてしまうのです。
——一度上がったヒラメやカレイを、すぐ海に戻しては?
底曵きでとった魚を、生かして海に返すのはムリです。今回の試験操業の場合、水深150mの場所にいるものを一気に揚げてくるわけです。気圧は地上の15倍。目や浮き袋が飛び出るほど気圧が違うので、船に揚がった時点で生きていられません。あわよく生きていたとしても、自力で泳いで元いた場所に戻るなんて土台ムリなのです。
——操業するには何が必要ですか?
私としては、「非破壊検査型全量検査システム」が、操業再開に向けて必須の重要な柱だと考えています。
——えっ、魚の全量検査ですか? 刻まず非破壊で行なうのですか?
はい。
——同じ形状で、検査後も食べられるコメなら可能ですが、魚を刻まずに計るのは、ムリなのでは?
検出限界をひと桁に設定して、長時間かけていたら、魚がダメになってしまいますが、たとえば50Bq/㎏に設定して行なう簡易的なものであれば、不可能ではないと思います。
——その根拠はどこに?
去年の5月頃、「久之浜の漁師の新妻です」と、ネットで検査機のメーカーに片っ端からメールを送りました。技術者に会って話がしたい。すると、5社ほどの人たちが「いいですよ」と、話してくれました。実際に会って話して非破壊検査の可能性を探ると「決して不可能ではない」と。実際に石巻や大津(茨城)では、それに近い測定器が使われているのです。それにコメで行なわれている全袋検査の技術を応用すれば、必ずしも全量検査は不可能ではないと考えるようになりました。
——そういう意見の漁師さんは、他にもいるのですか?
いえいえ、いわきの漁師でも極少数派です。原発事故が起きて1年目は、さすがに凹んでいました。けれど、試験場のモニタリングの結果を見る限り、海水も、魚も、海底土も放射性物質のデータの値が下がってきた。これは事実。去年の6月、相双漁協での試験操業が始まった。海の汚染は南側に広がっていて、原発の南側に位置するいわきは難しいといわれていましたが、これならきっと獲れる。そう思えるようになってきました。これは、真剣に考えて、考え抜いて、たどり着いた結果です。
↑久之浜の底曵き船。網の口を広げる「オッターボード」がついている。
——今はどう過ごされているのですか?
火曜と金曜がガレキ撤去の日。調査の日もあって船を出しています。
——本格操業や全量検査が実現するまでの間、やりたいことは何ですか?
今、問題なのは消費者への伝え方。水産試験場や漁協のHPの情報は、消費者にはわかりにくいし、納得しないと思います。大新聞やテレビもセンセーショナルな話題を探して、深刻そうな漁師の話ばかりとりあげて、それが風評被害を増幅させている。福島の海の現状と、漁師の考えを自己発信できるメディアを。風評被害を乗り越えるには、それが必要なのかもしれません。
いわきには、自力でネットを駆使して、情報を収集し、安全な魚を届けるために、奮闘している漁師さんがいる。まだ時間はかかるけど、決してあきらめていない。汚染水問題を一刻も早く解決して、晴れて漁に出られるように。その前に「伝え方」の問題も何とかしたい。現場にそんな漁師さんがいることを知っただけで、なぜか勇気と希望が湧いてきたのでした。
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